03: 日本の労働慣行 ~ 終身雇用と年功序列がもたらしたもの

高度経済成長期に確立した日本固有のメンバーシップ制という労働慣行は、一度確立した競争優位で製品の価値を提供する時代の長期的な経済成長を支える基盤として機能しました。

“終身雇用”、”年功序列“は、その象徴といえる制度です。

本章では、日本の労働慣行の成立の背景とその特徴をアメリカとの比較で紐解きます。

 

高度経済成長期の社会的ニーズ ~ 労働力確保と技術継承

一度確立した競争優位で製品の価値を提供する時代、人口ボーナス期の旺盛な需要と豊富な労働力で、高品質な製品を大量に生産することで成長を続けていました。

この時代、製品をいかに効率よく大量生産するかが、企業の成長に直結していたと言えるでしょう。

 

この大量生産を支えたのが、“金の卵”と称された均質で職人気質の優秀な労働力でした。その勤勉さが日本の製造業の競争力を高める原動力となりました。

 

その企業が成長し続けるためには、優秀な労働力を安定的に確保し、長期にわたって生産に従事してもらうことが不可欠でした。また、個人が習得した技術を社内に蓄積し、他社に流出させないための仕組みも必要とされました。これらのニーズに応える形で確立されたのが、終身雇用と年功序列を柱とする日本の労働慣行です。

 

高度経済成長期に成立した労働慣行 ~ 終身雇用と年功序列

“均質で優秀な労働力の長期・安定的な確保”と“社内での技術蓄積・技術継承”という社会的ニーズに応える形で確立されたのが、終身雇用と年功序列を柱とする日本の労働慣行です。

 

日本型労働慣行は、メンバーシップ型雇用と言われる職務内容や勤務地を限定せず、長期での育成を前提に新卒を一括採用します。

採用は終身雇用前提であり、不況期にレイオフ(解雇)を行うアメリカと違い、好況期には残業を前提に人員数を設計し、不況期にはその残業調整で雇用維持を図ります。

職務内容もメンバーシップ型とアメリカのジョブ型の違いを大きく受けます。

日本は、職務・勤務地・労働時間が限定されない、いわゆる“職務無限定性”であるのに対し、アメリカでは契約にもとづく職務を実施します。

 

また、評価・賃金もアメリカの成果主義に対し、日本は年功序列型となっています。

個人の成果が即、評価・賃金に直結するのではなく、“和”を尊重しながら、若いころの賃金を年齢とともに徐々に加算する賃金後払い制となっています。また、定年まで勤めあげることにより支給される退職金制度も年功序列を支える労働慣行として取り入れられました。

 

職務無限定性を支える制度 ~ 解雇権濫用法理と社会保障制度

とくに無限定性(職務・勤務地・労働時間の限定なし)は企業に有利な労働慣行であり、終身雇用を前提としながら、会社の判断で解雇や転勤・異動などが可能となり、従業員のみでなく、家族にも大きな負担をかけるものでした。

そこで労働者や家庭を支援する法制度なども整備されました。

 

例えば、労働契約法16条(解雇権濫用法理)は、会社による解雇の有効性を厳格な審査することにより、終身雇用を前提とした労働者の雇用維持を支援するよう整備されました。

 

また、転勤や異動に対し、専業主婦を前提とし家族単位で支援する配偶者を支援するため、税制の配偶者控除や、年金・健康保険の配偶者受給制度などが整備されました。

 

まとめ ~ 市場の変化速度への対応力の低い日本の労働慣行

終身雇用と年功序列は、高度経済成長期の日本において、企業の成長と労働者の安定に大きく貢献しました。職人気質を持った労働者と、彼らを長期的に育成し活用する企業の仕組みが、一度確立した競争優位で製品の価値を提供する時代、企業の継続的成長に大きく寄与しました。

一方、均質で指示通りに動くことを期待された結果、多様性や自律性を失い、また、転職による新しい産業へのスキル移転など、変化の激しい時代にはイノベーションの阻害要因ともなりました。

 

次章では1990年以降の時代の変化とイノベーションへの取り組みをアメリカとの比較を交えながら検証していく。