04: 日本のイノベーションへの取り組み ~ 経済とイノベーションの停滞

前章では、日本の労働慣行がいかに高度経済成長を支えたかを見てきました。

1990年以降、新しい競争優位を継続的に確立し自己実現のための価値を提供する時代に移りゆく中、日本の経済の停滞はイノベーション投資の停滞を招き、新しい競争優位を継続的に確立することが難しくなりました。

本章では、日本企業のイノベーション、特に売上サイドのプロダクトとコストサイドのプロセス・イノベーションについて、Oslo Manual 2018を参考にしながら研究開発投資とICT投資に焦点を当ててその原因を紐解いていきます。

 

分析の前提

イノベーションに関するデータの収集、報告及び利用のためのガイドライン(Oslo Manual)2018では、イノベーションとは

新しい又は改善されたプロダクト又はプロセス(又はそれの組合せ)であって、当該単位の以前のプロダクト又はプロセスとかなり異なり、かつ潜在的利用者に対して利用可能とされているもの(プロダクト)、又は当該単位により利用に付されているもの(プロセス)である

 

と定義されています。

また、

プロダクト・イノベーションとは、新しい又は改善された製品又はサービスであって、当該企業の以前の製品又はサービスとはかなり異なり、かつ市場に導入されているもの

 

プロセス・イノベーションとは、1つ以上のビジネス機能についての新しい又は改善されたビジネス・プロセスであって、当該企業の以前のビジネス・プロセスとはかなり異なり、かつ当該企業によって利用に付されているもの

 

と定義されています。

本章では、おもにOslo Manual2018を参考に、この売上サイドのイノベーション(プロダクト・イノベーション)を研究開発投資、コストサイドのイノベーション(プロセス・イノベーション)をICT投資で分析を行います。

 

はじめに ~ 低下し続ける日本の国際競争力

1990年、IMD世界競争力ランキングで1位だった日本は、以降、競争力を失い、その座を大きく後退しました。IMD世界競争力ランキングは、“経済状況”、“政府効率性”、“ビジネス効率性”、“インフラ”の4大分類とそれに属する小分類計20項目で評価されています。特に2014年には19位だったビジネス効率性は、2020年には55位と競争力ランキング低下の主要因の1つとなっています。

 

プロダクト・イノベーション ~ 伸び悩む研究開発投資とその成果

外向けのイノベーション(プロダクト・イノベーション)を研究開発投資とその成果の日米比較を軸に考察を行います。

研究開発のための投資として、研究者数は1980年よりアメリカと同等のペースで増加している。

対して研究開発費は、1990年まではアメリカをしのぐスピードで増加している一方、その後のペースは鈍化しています。

また、研究開発投資の成果である論文数、そのうち論文の質を表す引用論文数はともに、2000年頃までアメリカをしのぐペースであったものの、その後は停滞、減少へと転じてしまっています。

そして特許に至っては、1990年以降、横ばいから減少へと転じ、アメリカに大きく差をつけられる結果となっています。

 

 

 

 

 

研究開発期間やプロダクト・イノベーションの種類・インパクト、市場への浸透速度やそもそもの成功率などを考慮すると、その成果を単純比較することは困難ではあり、イノベーションの事例を列挙し数だけを単純比較することは適切ではないが、参考としてChatGPTがあげた1990年以降の日米のイノベーションを例示します。

 

プロセス・イノベーション ~ ICT投資も生産性も上がらない日本

18世紀後半、蒸気機関の発明で始まった第1次産業革命は工場の機械化をもたらし、さらに19世紀後半からの第2次産業革命は電力、石油などの新たなエネルギー源と素材の活用で大量生産方式を確立させました。

1970年代から始まった第3次産業革命は、コンピュータとICTの普及により、情報処理能力が飛躍的に向上しました。ワープロ表計算ソフトなどのオフィスソフトウェアが普及し、事務作業の効率化に貢献しました。電子メールの普及により、コミュニケーション手段も大きく変化しました。

さらに2010年代からの第4次産業革命ビッグデータ、AIなどの技術革新が中心となっています。ビッグデータの活用により、高度な分析によるマーケティングや経営戦略の意思決定が行われるようになりました。また、AIによる業務の自動化が進み、これまで人間が行っていた知的労働の一部がAIに代替されるようになりました。

このように製造現場の効率化をもたらした第1次・第2次産業革命に続き、1970年代から始まった第3次・第4次産業革命はバックオフィスの効率化をもたらしました。

 

そのバックオフィスの効率化をもたらすICT投資に積極的だったのはアメリカです。

ドットコム・バブルを乗り越え、2020年のICT投資はGDPの成長をはるかにしのぐ1990年比、9.4倍となりました。

一方、日本の2020年のICT投資は、GDPの成長とほぼ同じの1990年比、1.8倍、2000年以降はほぼ横ばいという状況です。

 

この結果、仕事でITを使う頻度はOECD加盟26か国中20位と低迷している一方、定型業務の割合を示すRTI(Routine Task Intensity)は7位と高くなっています。

これは、非定型業務の割合が低いことを意味しています。

特にRTIのホワイトカラーでの日米差は顕著であり、日本の定型業務の割合が多いことは、分析などのクリエイティブ業務の割合が少ないことを意味し、ホワイトカラーの生産性の差が生じていることを暗示しています。

すなわち、ICT投資の差が、仕事でのITを使う頻度の差となり、生産性にも影響していることを意味しています。

 

 

まとめ ~ 低調な投資がもたらした低調な成果

おもにイノベーションに関するデータの収集、報告及び利用のためのガイドラインOslo Manual2018を参考に、売上サイドのイノベーション(プロダクト・イノベーション)、コストサイドのイノベーション(プロセス・イノベーション)をそれぞれ、研究開発投資とICT投資をベースに日米比較を行いました。

特にその成果を定義し比較することは非常に困難ではあるが、論文・特許件数やRTI(定型業務の割合)で比較を行いました。

1990年から2020年までの30年間、アメリカはGDP成長率を超える研究開発投資とICT投資を行い、それに見合う成果を得ることができました。

一方、アメリカに比べ低調な日本の研究開発投資、ICT投資は、そのまま、成果も低調なものとなってしまった。

特にICT投資の差は生産性にも大きく影響してしまったと思われます。

 

次章では、今までの議論をもとに日本企業の課題と目指すべき働き方について検討していきたいと思います。