05. 目指すべき働き方の全体像 ~予測できない未来に対するアジリティ
質の高いモノづくりを行う日本の職人気質と労働力確保と技術継承のための労働慣行は、1990年までの変化が緩やかで単純な“予測できる未来”にはフィットし、経済成長を成し遂げた。一方、変化が速く複雑な“予測できない未来”への対応力が低下し、結果、経済の停滞を招いた。
本章では、予測できない未来にどのように対応するか、そのために必要なアジリティ(敏捷性)とは何かを紐解いていく。
日本企業の課題 ~ 職人気質と労働慣行が阻む予測できない未来への対応力
日本の品質の高いモノづくりを行う職人気質という労働観と終身雇用や年功序列に代表される日本の労働慣行は、変化が緩やかで単純な時代には機能した一方、現状維持という慣性が働き、イノベーションの低迷を招き、結果、経済停滞へとつながってしまった。
一方で、アメリカ企業は神との契約に基づく効率を重視する労働観と成果主義・実力主義を基本とする労働慣行は、競争による成果を第1とし、継続的なイノベーションと経済成長を実現しています。


目指すべき働き方 ~ 予測できない未来への備え
第2章で見てきたよう、過去の技術の普及速度が緩やかで製品の価値を求める時代は、変化が緩やかで単純で未来が予測できる時代でした。
そのような時代においては、一度獲得した競争優位を長期間、維持することが可能でした。
しかし、現在は技術の普及速度が速まり、精神的な価値・自己実現の価値を求める時代、変化が速く複雑で未来を予測できない時代になりました。
競争優位もすぐに陳腐化してしまいます。
そのような時代においては、短い一時的な競争優位を連鎖的に獲得し続ける必要があります。


この“一時的な競争優位の連鎖的獲得”確保するためには、イノベーションとプロセスのアジリティを高め、それを有機的に結びつけるダイナミック・リソース・アロケーションが必要であります。
具体的には
1. イノベーション・アジリティ
イノベーションを通じ動的な事業再配置を行う
2. プロセス・アジリティ
事業再配置を支える動的・自律的なプロセス構築を行う
3. ダイナミック・リソース・アロケーション
遅延ない事業再配置のためにリソースの手当をおこなう
単にイノベーションへの投資や、業務改革を通じたプロセス構築だけでなく、事業運営の母体となる“リソース”を軸にこれらを有機的に結びつけ、ダイナミックに運用していくことが大切になります。

イノベーション・アジリティ ~ イノベーションを通じた動的な事業再配置
イノベーション・アジリティとは、企業が知を探索・知の深化を通じ、動的に事業を再配置する能力のことです。これを実現するには、以下の2つのアプローチをバランスよく推進する“両利きの経営”が重要です。
知の探索
既存の知と新たに探索した知を組み合わせ、非連続型イノベーションによる革新性追求し、新しい事業機会を見出す
知の深化
既存事業の“知”を深堀し、漸進型イノベーションによる効率性・生産性向上を通じ収益機会を見出す


プロセス・アジリティ ~ 事業再配置を支える動的・自律的なプロセス構築
イノベーションを起こすことは容易ではありません。イノベーションを起こすためには、知と知の新結合(new combination)が不可欠です。そのためには、社内外とのコミュニケーション・ネットワークを積極的に構築し、多様な知識や情報を共有・交換することができる組織的なプロセス設計が重要になります。
また、事業再配置に伴い、リソースを遅延なく再配置するためには、固定化・属人化したオペレーション業務を解消し、工数余力を確保しやすいプロセス設計が必要になります。
すなわち、イノベーション・アジリティを実現するには、オペレーショナルで固定的・属人的なプロセスから、クリエイティブで動的・自律的なプロセスへのシフトする必要があります。

そのためには、単なるBPR (Business Process Re-engineering)ではなく、組織から文化に至るまでの視点でプロセス全体のアジリティを高めることが重要になります。

ダイナミック・リソース・アロケーション ~ 遅延ない事業再配置のためのリソース手当
既存事業の強化・撤退や新規事業への参入・強化・撤退など、今までにないスピードで事業再配置を行う上で、リソースも遅延なく、再配置が必要です。
リソースを迅速に手配できなければ、事業の進捗は遅れてしまいます。タイミングを逃してしまうと、競合他社に先を越されたり、市場の変化に対応できなくなったりする可能性があります。
事業再配置を遅延なく実現するため、イノベーション・アジリティとプロセス・アジリティを有機的に結びつけ、動的にリソース手当を行う必要があります。

目指すべき働き方の事例 ~ Googleに見る予測できない未来に対するアジリティ
ここでは世界有数のイノベーション企業Googleでの予測できない未来に対するアジリティを、書籍“How Google Works”(エリック・シュミットほか)をもとに考察したいと思います。
一時的な競争優位の連鎖的獲得
Googleは、一時的な競争優位を連鎖的に獲得するために、柔軟でスピーディな開発・意思決定を行う組織づくりを重視しています。その方針のもと、巨大組織ではなく、多くの試行錯誤を行える組織を目指し、変化に迅速に対応できる体制を構築しています。
イノベーション・アジリティ
Googleがイノベーションを起こす上で大切にしているのは、経営者がリスクを取り、避けられない失敗に耐えられるだけの強靭な組織を作ることです。多くの企業がイノベーションのリスクテイクを恐れて新しい事業を起こせない中で、Googleは失敗を許容する文化を醸成し、常に新しい挑戦を続けています。
プロセス・アジリティ
Googleは、スピーディで動的・自律的なプロセスを重視しています。そのために様々な取り組みを行っています。
特に意思決定に関しては、
HiPPO(Highest-Paid Person’s Opinion)の意見は聞かない: 役職の高い人の意見に偏らず、データや事実に基づいて意思決定を行います。
単一の意思決定者: 複数の意思決定者がいると妥協案になりがちなので、単独の意思決定者に責任を持たせます。
議事録(決定内容・行動計画)の展開: 決定事項を48時間以内に共有し、実行に移せるようにします。
不要な会議には出席を断る: 効率的な時間活用のため、必要のない会議は極力削減します。
とびきり高性能のルータになれ: あらゆる情報を共有し、組織全体の知力を高めます。
コミュニケーション過剰にする: 密なコミュニケーションを図り、意思疎通を円滑にします。
ダイナミック・リソース・アロケーション
Googleでは、社員が仕事時間の20%を好きなプロジェクトに従事できる制度があります。いわゆる20%ルールです。これは新しいアイデアを生み出すことを奨励するとともに、工数余力を確保し、プロジェクトへの参画の自由度を維持しています。
すなわち、Googleは、イノベーションのための戦略から組織・プロセス・システム・文化・意思決定まで一貫して設計されています。


まとめ ~ 日本企業のイノベーションに対する戦略的一貫性の欠如
本章では予測できない未来に対応するためのアジリティ”について見てきました。
世界有数のイノベーション企業Googleでは、一時的な競争優位の連鎖的獲得のため、イノベーションの戦略から組織・プロセス・システム・文化・意思決定まで一貫して設計されています。
一方、多くの日本企業ではその一貫性がなく、失敗が許されない文化のもと、イノベーションの戦略・方針が不明確であったり、業務改革自体が実効性のないコスト削減に終始したりなど、明確な目的がなく、イノベーション・アジリティとプロセス・アジリティの有機的な結びつきが不十分です。

次章からは、それぞれのアジリティについて課題と対策の深堀をしていきます。