3-2. 令和な働き方 - 令和の企業戦略

人口、特に生産年齢人口の増加・減少は需要・供給、両側面で大きな影響を与えます。 

さらに消費者の欲求は、物理的欲求から精神的欲求へと変化しており、結果、新しい技術の個人への普及スピードも格段に速くなってきています。 

まさに静から動への対応力が必要になっています。 

 

<企業寿命 ~ 短命化する企業寿命> 

このような環境の変化のもと、倒産する企業の寿命はS&P500に選ばれる大企業ですら 

  1970年後半:30~35年 

  2010年代:15~20年 

と短命化していっています。 

https://www.innosight.com/insight/creative-destruction/ 

 

<業態転換 ~ 環境への適応> 

このような変化に対して、生き残っている企業は、創業時からとは異なる業態への転換を果たしているケースも少なくない。

業名 

創業年 

当初の業種 

現在の業種 

サンリオ 

1960年 

シルク販売 

キャラクター・ライセンスビジネスほか 

DeNA 

1999年 

Eコマース 

オンラインゲーム事業 

任天堂 

1889年 

花札製造・販売 

家庭用ゲーム機・ソフトウェア開発 

富士フイルム 

1934年 

写真フィルム製造 

ヘルスケア、高機能材料、情報ソリューションほか 

日立造船 

1881年 

造船 

環境、機械・インフラ、脱炭素ほか 

凸版印刷 

1900年 

印刷 

印刷事業、情報コミュニケーション事業、エレクトロニクス事業ほか 

ヤマハ 

1887年 

ピアノ・楽器製造 

楽器、オーディオ機器、オートバイ、船舶など 

DHC 

1972年 

委託翻訳業務 

化粧品、健康食品、医薬品ほか 

3M 

1902年 

研磨材 

産業製品、医療製品、家庭用製品、オフィス用品ほか 

アマゾン 

1994年 

ネット書籍販売 

オンラインショッピング、Cloud、フルフィルメントほか 

 

フィルムからデジタルへの転換に失敗したコダックとは対照的に、富士フィルムは事業転換を成し遂げました。 

 

アマゾンは” 意図的なダーウィン理論”という文化をはぐくみ、両利きの経営の著者であるスタンフォード大学 のチャールズ・オライリー教授は、1994年の創業以来、30回のイノベーションを繰り返していると分析しています。 

 

<安定した持続的な競争優位から一時的な競争優位の連鎖的獲得> 

以上が示すものは、このようなハイパー・コンペティションの状況では、常に環境への適応を繰り返し、業績が落ちかけてもすぐに新しい対応策を打って業績を回復させ、変化を繰り返す 一時的な競合優位を連続的に獲得する必要があります。 

すなわち、イノベーションそのものが企業戦略になります。 

 

ここからは、早稲田大学入山教授の著書”世界標準の経営理論”をベースに、特に”執行”領域を意識して、一時的な競合優位を連続的に獲得するための3つのポイントについて考えていきたいと思います。 

 

ポイント1:経営資源(リソース)を動的(ダイナミック)に組み替える

急速に変化するビジネス環境に対応するため、技術・人材・ブランドなどの様々な経営資源(リソース)を動的(ダイナミック)に組み合わせ直し続け、組織の能力(ケイパビリティ)を高めていく必要があります。 (ダイナミック・ケイパビリティ)

 

ポイント2:積極的に企業方針を推進する

中長期的な視点での投資より、足元の収益を優先するなど、経営者は経営者自身の利益を優先して行動してしまうことがあります。 (エージェント問題)

一時的な競合優位を連続的に獲得するために正しく経営判断ができるよう、ガバナンスを機能させる必要があります。

 

ポイント3:組織・文化の硬直化を防止する

企業の人材・プロセスなどの同質化が進むと、環境変化に対応できなくなります。 (VSRSメカニズム)

組織・文化の硬直化を防ぐため、組織内の多様性、プロセスの組み替えを行う必要があります。

 

 

変化する環境に一時的な競争優位を連続的に獲得するためのポイント



3-1. 令和な働き方 - 高度経済成長期からの市場の変化 ~ 静から動へ

<人口 ~ 人口ボーナス期の終焉>

”東洋の奇跡”と言われた高度経済成長を支えた人口ボーナス期は去り、2008年をピークに日本の人口は減少へと転じました。平均寿命も延びる中、生産年齢人口は1995年をピークに減少へと転じ、人口オーナス期に入っています。

 

我が国の人口について

 

 図表1-1-7 出生数、合計特殊出生率の推移|令和2年版厚生労働白書-令和時代の社会保障と働き方を考える-|厚生労働省

図表1-2-1 平均寿命の推移|令和2年版厚生労働白書-令和時代の社会保障と働き方を考える-|厚生労働省

 

 

とくに顕著なのは高齢化率です。

GDPの50%以上が個人消費に頼る現状、当然、日本の人口が減れば需要も減り、GDPも減ります。

さらに高齢化率の上昇が、GDPを急激に押し下げ、さらに税収を押し下げます。

結果、政府支出が減り、社会インフラ・社会保障の維持すら困難となります。

 

少子化による人口減、特に生産年齢人口の減少は市場の縮小を招いています。

縮小する市場でシャアを求める戦略(コスト・リーダーシップなど)は、完全競争を招き、企業の超過利潤はゼロになってしまいます。

 

 

- 参考:アメリカの経済力の強さの源泉 -

アメリカの経済力の強さの源泉を戦争の経済学・地政学・移民政策に見ることができます。

戦争学の視点では、2回の世界大戦を通じ、アメリカはその地位を不動のものとしてきました。

司馬遼太郎もその著書”坂の上の雲”で、日清・日露戦争当時のアメリカを軍事も経済も二流国として描写しています。

しかし、戦争の経済学は、戦争の勝者であれ敗者であれ、戦争の主体となり、さらに国土が戦場となった場合、短期的(軍費など)にも、中長期的(人口減・産業の荒廃など)にもその経済合理性がないことを示しています。

そのような中、アメリカは荒廃しきったヨーロッパ諸国に対し融資することによりその経済力をつけてきました。

さらに地政学の視点ではアメリカは

   気候・資源に恵まれた土地

   太平洋・大西洋に面し、海を支配

   移民を受け入れ、常に若い労働力・購買力を持ち、人口増加が続く

という世界でも恵まれた条件を持っています。

そのほか、イノベーションを起こす土台、進んだ法整備がその経済力の強さの源泉となっています。

特に移民政策では、ヒスパニック系を中心に日本の高度経済成長期並みの人口増加が続いていることが、経済力の源泉となっています。

 

米国勢調査の最新結果から人口動態変化を読み解く | 地域・分析レポート - 海外ビジネス情報 - ジェトロ

 

 

<消費者の欲求 ~ 物理的欲求から精神的欲求へ>

モノはマズローの欲求5段階説の物質的要求(生理的欲求、安全欲求)を満足させてくれます。

言い換えると、モノが少ない時代は、”役に立つ”モノを所有することが大切でした。

 

モノが飽和する現在、欲求は精神的欲求(社会的欲求、承認欲求、自己実現欲求)へと昇華していっています。すなわち、顧客は単なるモノではなく、自己表現や社会的なつながりを求めるようになってきました。

言い換えると、モノがあふれている現在、モノを所有する”意味があること”が大切な時代となりました。

 

それを端的に表現した代表例は、Wikipediaにも掲載されている伝説のAppleのキャンペーン広告であるThink Differentではないでしょうか。

 

Think different - Wikipedia

 

<技術の浸透 ~ 動の変化が要求される時代へ>

消費者の経済的ゆとりの増大と欲求が変化する中、新しい技術の個人への普及スピードも格段に速くなってきています。

例えばアメリカでの世帯普及40%に要した期間を見た場合

  電話=64年、スマホ=10年

で普及しています。

 

The Pace of Technology Adoption is Speeding Up

 

すなわち、64年という静的な競合優位を確立できた過去に比べ、10年という動的な競合優位を継続的に確立する必要な時代になってきました。

 

<静から動へ> 

人口、特に生産年齢人口の増加・減少は需要・供給、両側面で大きな影響を与えます。 

さらに消費者の欲求は、物理的欲求から精神的欲求へと変化しており、結果、新しい技術の個人への普及スピードも格段に速くなってきています。 

企業としてまさに静から動への対応力が必要になっています。 

3. 令和な働き方

現在の日本企業の組織・制度は昭和の高度経済成長期に確立され、社会全体に浸透していきました。

その日本的雇用慣行は現在も様々な形で日本企業に大きな影響を与えています。

 

一方、時代の変化とともに事業環境も大きく変化しました。

もはや、静的な”競合優位の獲得・維持”、すなわち、市場成長以上に成長することだけでは企業として生存できない時代になりました。

フィルムからデジタルへのカメラの急速なシフトに対応できなかったコダックのように・・・

 

まずは、高度経済成長期からどのような環境変化があったのか、そしてどのような戦略変更が必要なのか、そのための3つのキーワードについて考えていきたいと思います。

2-4. 昭和な働き方 - まとめ

昭和な働き方が確立されたのが高度経済成長期です。 

年平均で10%もの成長を続け、1968年にはアメリカに次ぐ第2の経済大国となりました。 

個人消費も投資もともに伸び、生活水準が大きく向上しました。 

 

要因の1つが、人口が右肩上がりに増える人口ボーナスです。 

特に1970年には全人口の70%を占めていた生産年齢人口は企業側の供給力となる一方、旺盛な需要をも生み出します。 

 

生産年齢人口によって需要が拡大する市場、すなわち、作れば売れる時代の企業戦略は、静的な”競合優位の獲得・維持”であり、市場成長以上に成長することでした。

そのためのポイントは 

”より多くのモノを計画通りに作り続ける” 

ということにありました。 

 

そのような中、初等教育を受けた優秀な生産年齢人口の人材が供給側でも活躍しました。 

すなわち、その労働力を長期で安定的に確保し、市場以上の成長を実現するめ、終身雇用制度・年功序列制度が整備されていきました。 

 

併せて 

  トップが決めた計画を確実に遂行する 

  そのためにミスは(限りなく)ゼロにする 

ために 

  ヒエラルキー組織 

  評価制度:減点主義 

などの制度も整備されていきました。 

 

企業と労働者のみが、高度経済成長期の日本型雇用慣行を支えたのではなく、家庭を含む社会や、政府も法制などによるその発展を支えました。 

 

家庭では、唯一の収入源として、長時間労働・転勤にも家族で対応する見返りに専業主婦は年金・健康保険の受給を受けられるようになりました。 

 

法制も、退職金の所得控除や配偶者控除などで実質、終身雇用と専業主婦制度を支援しました。 

 

また、解雇権濫用法理により、司法の面でも、終身雇用が強く守られたり、中小企業基本法により、企業の自然な新陳代謝より雇用・労働力確保が優先されました。 

 

これらにより、東洋の奇跡と呼ばれる成長を果たすことができた一方、 

  人材の流動性が失われている 

  企業の新陳代謝の停滞 

など負の側面も出ています。 

2. 昭和な働き方

現在の日本企業の組織・制度は昭和の高度経済成長期に確立され、社会全体に浸透していった。 

その日本的雇用慣行は現在も日本企業に大きな影響を与えています。 

まずは高度成長期の特徴をとらえたうえで、市場成長以上に成長するという戦略のもと、どのような雇用制度が導入され、どのような企業文化が育ったのか、そして社会がどのように支えてきたのかを考えていきたいと思います。 

1. 日本の働き方の原点

日本固有の社会的正当性、すなわち、日本人のDNAとして染み付いたこうあるべきという暗黙的合意が

  宗教、思考のくせ、文化

という観点でどのように形成されたのか、そして

  働き方にどのように影響しているのか

を見ていきたいと思います。

2-1. 昭和な働き方 - 昭和の社会の前提 ~ 東洋の奇跡がもたらしたもの

<高度経済成長の特徴> 

昭和な働き方が確立されたのが高度経済成長期です。 

1955年~1973年までの間、日本経済は年平均で10%もの成長を続け、1968年にはアメリカに次ぐ第2の経済大国となりました。 

統計局ホームページ/統計Today No.48

 

この経済成長により、例えば、個人消費という視点では、三種の神器と呼ばれた冷蔵庫・洗濯機・テレビという耐久消費財が一般家庭に普及し、人々の生活水準も向上させました。 

また、投資という視点では、1964年には東京五輪が開催。それに合わせ東名高速道路東海道新幹線の開通など、インフラも整備されていきました。 

 

<人口が増え、経済が活発化する好循環> 

この”東洋の奇跡”と呼ばれる戦後日本の高度経済成長を生みだした要因の1つが、人口が右肩上がりに増える人口ボーナスです。 

人口ボーナス期・オーナス期について|働き方改革ならワーク・ライフバランス

 

人口は経済を支える土台です。人により財やサービスが供給され、人がそれを消費します。 

特に1970年には全人口の70%を占めていた生産年齢人口(生産活動の中心にいる人口層、15歳以上65歳未満の人口)は企業側の供給力となる一方、旺盛な需要をも生み出します。 

1960年~1970年代にかけての日本は、平均寿命70歳という社会で、高い出生数を誇っていました。  

総務省|令和4年版 情報通信白書|生産年齢人口の減少

 

図表1-1-7 出生数、合計特殊出生率の推移|令和2年版厚生労働白書-令和時代の社会保障と働き方を考える-|厚生労働省

図表1-2-1 平均寿命の推移|令和2年版厚生労働白書-令和時代の社会保障と働き方を考える-|厚生労働省

 

 

すなわち、生産年齢人口の増加が需要と供給をともに押し上げる好循環が生み出す一要因となりました。