創造性と生産性の前提 - イノベーションに必要な要素
<主な参考文献>
<イノベーションの定義>
イノベーションを技術革新と訳したのは世紀の大誤訳であり、ゼロからイチを生む出さなくてはいけないかのような印象を与えてしまった。
イノベーション - Wikipedia
しかし、シュンペーターは、イノベーションを
経済活動の中で生産手段や資源、労働力などをそれまでとは異なる仕方で新結合 (New Combination)すること
とし、技術に限らず多くの分野でイノベーションは可能だと定義した。
Product innovation (消費者がまだ知らない商品、新しい品質の商品の生産)
Process innovation (産業部門で未知な生産方法の導入)
Market innovation (従来なかった市場の開拓)
Material innovation (原材料の新しい仕入れ先)
Institutional innovation (独占的な地位の形成や独占状況の打破など)
OECDでもイノベーションは
新しい(または重大な改良が加えられた)製品・サービスまたはその生産・配送プロセス、新たなマーケティング手法、組織における新たな業務方法や職場内外での関係などの追求と実践
とし、こちらも様々な分野でのイノベーションを定義した。
Product innovation (製品・サービスのうち特性や用途が新しいもの・大きな改良がおこなわれたもの)
Process innovation (生産方法ま・配送方法が新しいもの・大きな改良がおこなわれたもの)
Marketing innovation (商品デザイン、販売方法、製品プロモーション方法、価格設定方法などのマーケティング手法が新しいもの・大きな改良がおこなわれたもの)
Organisational innovation (組織における業務方法や形態、対外関係等に関する新たな方法)
<イノベーション(新結合)に必要な要素>
既存の技術・資源・知恵を組み合わせる”新結合”を行うには
新結合の手段:多様な知識・経験・バックグラウンドを持った人が出会い、コミュニケーションする
ことが大切であり、そのためには
新結合の土台:フラットな組織と積極的にコミュニケーションをとるという企業・個人の文化・マインドセット
が重要になってくる。
昭和な働き方から令和な働き方へ - 令和な働き方の労働政策
昭和から令和へ、社会・市場が大きく変化していった。
企業の価値創出の源泉も、生産力から創造性 x 生産性に大きく変化していった。
それとともに労働政策も少しずつ変化が見えてきた。
<昭和な労働政策>
作れば売れる時代、労働力確保が企業の最大の課題であり、労働力確保を促す政策が国家の最大の課題だった。
そこで、企業は年功序列・終身雇用制度という日本固有の労働制度を確立し、また、政府は企業の新陳代謝より雇用の維持を最大の政策としていった。
特に1999年まで続いた中小企業基本法 (1963年~1999年)により業界内での淘汰にブレーキがかかり、本来、新陳代謝されるべきゾンビ企業が多く残る結果となった。
<令和な労働政策>
平成・令和に入り、昭和な労働力確保を目的とした労働政策から、少子・高齢化と人生100年時代を前提とした生産性の維持・向上+高齢者の活用に目を向けた政策・法規導入が進んできている。
- 一億総活躍社会
- 同一労働・同一賃金 (2021年 パートタイム・有期雇用労働法、2020年 労働者派遣法)
‐ 長時間労働の是正 (2018年 働き方改革関連法)
- 65才定年 (2013年 高年齢者雇用安定法)
- 少子化対策 (2003年 少子化社会対策基本法)
昭和な働き方から令和な働き方へ - 令和な働き方のマネジメント
昭和から令和へ、社会・市場が大きく変化していった。
企業の価値創出の源泉も、生産力から創造性 x 生産性に大きく変化していった。
それとともに企業のマネジメントも大きく変化する必要性が生じている。
<マネジメントの目的>
作れば売れる時代から、顧客体験の提供が重要視される時代へと変化するにあたり、企業のマネジメントの目的も
同じものを作り続ける (What重視)
から
イノベーションを起こす (How重視)
へと大きく変化していかなくてはならない。
<マネジメント・スタイル>
同じものを作り続ける時代は
ルールありき
の管理が必要であり、そのルールは
失敗を許さない
トップダウンと統制
計画+実行
といったものであった。しかしイノベーションを起こす際の管理は
ビジョン・ゴールありき
であり、それを指し示し推進するためには
Try and Error (チャレンジしないことを許さない)
自主性 (権限委譲)とコラボレーション
クリエイティブと効率
が重要視される必要がある。
<組織・評価・目標設定・人材>
ルールありきの組織は軍隊組織に代表される
ヒエラルキー組織(階層組織)
との親和性が高く
目標設定に対する減点評価
となっていく。一方、イノベーションを起こす組織ではよりフラットな
ホラクラシー組織
との親和性が高く
ムーン・ショットといわれる理想の高い目標設定
それをやり抜くオタク
組織を目指している。
昭和な働き方から令和な働き方へ - 令和な働き方の前提 ~ 創造性と生産性
昭和から令和へ、社会・市場が大きく変化していった。
それとともに企業の価値創出の源泉も大きく変化していった。
<令和な社会>
高度経済成長を支えた人口ボーナス期から少子・高齢化に伴う生産年齢人口減という人口オーナス期に入った。
人口オーナ
ス期には、労働市場(供給)も消費市場(需要)も急速に縮小していくとともに、人生100年時代に入り、社会インフラ・社会保障を維持するために労働力の維持・生産性の向上が必要となっている。
一方、モノがない時代からモノが飽和する時代への変化が、人の欲求レベルの変化をもたらした。すなわち
物質的要求(生理的欲求、安全欲求)から
精神的欲求(社会的欲求、承認欲求、自己実現欲求)
へと昇華していった。
<令和な価値創出の源泉>
そのような中、企業の価値創出の源泉は
モノづくりの時代の同じものを大量に作るための労働力から
コトづくりの時代の新たな顧客体験を効率的に生み出す創造性 x 生産性
へと変化していった。
0. はじめに
<日本企業の課題 ~ 個人的な課題意識>
経済学では、一度獲得した競争優位はそのまま継続するという静的モデルをベースとしています。
しかし、”両利きの経営”や”世界標準の経営理論”で指摘されている通り、その静的モデルが通用する、すなわち、単発の”競争優位性の獲得・維持”が戦略であったころの過去の経営とは異なり、現在は急速に変化する環境で、動的な”一時的な競合優位の連続的な獲得”が企業戦略として必要となっています。
しかし、多くの日本企業では昭和の高度成長期からの静的な競合優位を支える働き方から脱することができていないのではないでしょうか。
結果、日本の労働生産性はジワジワとその国際競争力を失っています。
https://www.jpc-net.jp/research/assets/pdf/press_2022.pdf
(記憶が正しければ)元カルビーCEOの松本さんはカルビーに着任当時、”売り上げが落ちているのに、同じ働き方をしていて売り上げが上がるはずがない”旨の発言をされています。
今こそ、急速に変化する環境で、動的な”一時的な競合優位の連続的な獲得”が必要なのではないでしょうか。
そして、そのために必要なものは
イノベーションによる連続的な新規事業の創出
既存事業の競争優位を維持・強化
という両利きの経営ではないでしょうか。
<日本企業が目指すべき方向性 ~ 一時的な競合優位の連続的な獲得>
上記の2つのポイントを実現するにはどうすればいいのでしょうか。
知の探索・知の深化に限定せず、”世界標準の経営理論”をベースに、経営全体の視点でもう少し深堀をしたいと思います。
イノベーションによる連続的な新規事業の創出
シュンペーターの定義によると、イノベーションとは”新結合(new combination)”、すなわち既存の技術や資源、労働力などの結合により生まれるものです。(イノベーションは技術だけの話でなく、また、革新という言葉からくるゼロからイチを生むものでもなく、”技術革新”は世紀の大誤訳です)
イノベーションによる連続的な新規事業の創出には、2つのポイントがあります。
イノベーションを起こすための知の探索を行い、新結合を起こさせること。そのために
- 状況に応じて適切にリソースをあてがうこと (ダイナミック・ケイパビリティ)
- 人的ネットワークを持たせること
イノベーションはリスクが高く、既存事業へのリソース配分に振られがちとなる(コンピテンシー・トラップ)。そのために
- ガバナンスをきかせ、中長期の視点を持った経営判断を行える仕組みを作ること
既存事業の競争優位を維持・強化
既存事業の競争優位を維持・強化には、3つのポイントがあります。
知の深化を行い、既存事業に磨きをかけること。そのために
- 人的ネットワークを持たせること
それを生産性高く実施すること(コスト・リーダーシップ)。そのために
- BPRを推進すること
- 状況に応じて適切にリソースを再配置すること (ダイナミック・ケイパビリティ)
衰退時には適切な経営判断を行うこと。そのために
- ガバナンスをきかせ、中長期の視点を持った経営判断を行える仕組みを作ること
すなわち、イノベーションによる連続的な新規事業の創出と既存事業の競争優位を維持・強化するには、以下の3つがポイントになります。
① ガバナンスの導入による中長期視点での意思決定 (攻めのガバナンス)
- コンピテンシー・トラップに陥らずにイノベーションへの投資判断ができること
‐ 撤退を含めた既存事業への経営判断ができること
② 事業環境に合わせ、動的にリソースの再配置を行うこと (ダイナミック・ケイパビリティ)
- 人的ネットワークを築くこと
- 特に既存事業に関してはBPRを通じ、さらにリソースを捻出し、適切に再配置すること (消えた工数問題)
③ 長期的な硬直化の防止 (組織・カルチャーの進化)
- 中長期的な同質化・硬直化による環境変化の対応力低下に対し、組織内の多様性を維持すること
<なぜ改革が進まないのか ~ 改革の阻害要因>
日本企業が目指すべき方向性に対して、解決は容易ではない。その阻害要因は広域に広がり、以下に分類することができます。
- 戦略・企業方針
企業目的を達成するための経営判断
- 業務
経営判断に基づく事業の執行
- インフラ
業務を行う上での環境 (IT, オフィスなど含む)
- 組織
企業目的を達成するための集団を形成するために人為的に設定された枠組み (組織構造・制度など)
- 企業文化
企業理念その他により確立された従業員の行動の特性
- 習慣(社会的正当性)
宗教・道徳・その他の要因により確立し、日本人のDNAとして染み付いたこうあるべきという暗黙的合意
<本ブログの対象領域>
”世界標準の経営理論”をベースに、20年以上のコンサルタント・社内コンサルタントとしての現場での経験に基づき、特には”執行”の領域での課題・真因から実務的な対応策についてポイントごとにまとめます。
一部、”経営”領域に関しても”執行”という視点を交え、まとめる予定です。具体的には
ポイント① 攻めのガバナンス
基本的には”経営”の領域ですが、一部、執行にも関わる領域をカバー
対応する改革阻害要因:
- 戦略・方針
具体的な対応策:
- 意思決定、リスクテイク
ポイント② ダイナミック・ケイパビリティ
対応する改革阻害要因:
- 業務
- インフラ
- 組織
具体的な対応策 :
- BPRや業務断捨離など、既存業務のスリム化
- リソース・シフトなど動的ケイパビリティの再配置
- ITによる省力化
- ネットワークによる知の探索・知の深化
- 職務(オフィス)環境
ポイント③ 組織・カルチャーの進化
対応する改革阻害要因:
- 企業文化
- 組織
具体的な対応策:
- 組織形態
- ダイバーシティ
- マインドセット
<本ブログの構成>
本ブログは以下の構成でまとめる予定です。
1. 日本の働き方の原点
日本固有の社会的正当性はどのように形成され、働き方にどのように影響しているのかを考察
2. 昭和な働き方
高度成長期の静的な”競合優位の獲得・維持”のための働き方を”昭和な働き方”と定義したうえでその特徴を考察
3. 令和な働き方
動的な”一時的な競合優位の連続的な獲得”を令和な働き方と定義したうえでその特徴を考察
4. 必要な改革
令和の働き方の実現を目指すために必要な改革
5. 具体的な改革事例など
みなさんからのフィードバックもぜひ、よろしくお願いします。
1-2. 日本の働き方の原点 - 思想・思考に見る日本の働き方 ~ なぜ忖度するのか
日本固有の社会的正当性(社会共通で醸成されている暗黙的合意。倫理観・価値観など)はどのように形成され、働き方にどのように影響しているのでしょうか。
気候・風土・土地・食・宗教・・・社会的正当性は多くの要素に影響を受け、社会的正当性は働き方にも影響を与えています。
思想・思考の観点から見た日本の働き方を考察したいと思います。
<西洋的な思想・思考=ギリシャ哲学>
古代ギリシャ時代に確立したギリシャ哲学は西洋の思想の根底となっています。
その原点は、狩猟・牧畜・漁・貿易に適した国土で、他者との協力をあまり必要とせず、その経済活動は共同体に定住していなくても行うことができます。そして、多くの都市国家(メトロポリス)がその規模・優位性を競い、住民はよりよい暮らしのできるメトロポリスでの生活を求めることができました。
”自分の人生を自分で選択したまま生きる”。その大切な選択を行うために、周囲から切り離された対象物それ自体を単独で観察し分析する分析的思考が発展した。
すなわち、サル・笹・バナナ・パンダを、動物(サル・パンダ)と植物(笹・バナナと分類することが西洋的な思想・思考の原点となっています。
そのような西洋的思想・思考のもとで欧米を中心とする企業では
ロジカルな比較分析による迅速な意思決定
といった働き方の定着の一要因となった。
< 東洋的な思想・思考=儒教>
稲作を中心とする東洋・中国ではお互いに協力しあい、土地を耕す必要がある。
個人は何よりもまず、氏族や村落、家族といった「集合体の一員」であり、そんな環境で成立した家族・村・社会を大切にする儒教では、協調性がとりわけ重要でした。
そして、互いの関係性に目を向け、その関係性の発展に重点を置く、包括的思考(対象周囲の関係性も含める=全体を見渡す)が発展しました。
すなわち、サル・笹・バナナ・パンダを、サル+バナナ、パンダ+笹という関係性に着目する東洋的な思想・思考の原点となっています。
そのような東洋的思想・思考のもとで日本の企業では
包括的な分析、時には忖度・空気を読んだ意思決定
といった働き方の定着の一要因となった。
<主な参考文献>
創造の時代に目指す働き方像 - デジタル・アテネを目指した三位一体の改革
よりクリエイティブな業務へシフトを目指すデジタル・アテネ。
そのためには、単に業務改革(BPR=Business Process Re-engineering)だけでは不十分である。
IT/DXの技術を積極的に取り込み、仕事のすみ分け自体をヒューマンとデジタルで切り分けしていく必要がある。
それとともに、企業文化・マインドセットの変革も同時に進める必要がある。
特に日本においては
楽をして働くことは悪である とか
自業務の品質のとにかくこだわる
といったマインドセットが強い。
結果、システム導入自体に罪悪感を感じたり、効率化して浮いた時間を既存業務の品質向上に当ててしまうなどの事例は枚挙にいとまがない。
効率化した時間は、誰も求めていない報告書の精度向上に時間を割くのではなく、お客様が求める新たなコト・経験・意味・価値の創造に使われるべきである。
そのためにも企業の文化・個人のマインドセットの改革をあわせた三位一体の改革が必要となってくる。