0. はじめに

<日本企業の課題 ~ 個人的な課題意識> 

経済学では、一度獲得した競争優位はそのまま継続するという静的モデルをベースとしています。 

しかし、”両利きの経営”や”世界標準の経営理論”で指摘されている通り、その静的モデルが通用する、すなわち、単発の”競争優位性の獲得・維持”が戦略であったころの過去の経営とは異なり、現在は急速に変化する環境で、動的な”一時的な競合優位の連続的な獲得”が企業戦略として必要となっています。 

 

しかし、多くの日本企業では昭和の高度成長期からの静的な競合優位を支える働き方から脱することができていないのではないでしょうか。 

結果、日本の労働生産性はジワジワとその国際競争力を失っています。 

https://www.jpc-net.jp/research/assets/pdf/press_2022.pdf 

 

(記憶が正しければ)元カルビーCEOの松本さんはカルビーに着任当時、”売り上げが落ちているのに、同じ働き方をしていて売り上げが上がるはずがない”旨の発言をされています。 

 

今こそ、急速に変化する環境で、動的な”一時的な競合優位の連続的な獲得”が必要なのではないでしょうか。 

そして、そのために必要なものは 

   イノベーションによる連続的な新規事業の創出 

   既存事業の競争優位を維持・強化 

という両利きの経営ではないでしょうか。 

 

 

<日本企業が目指すべき方向性 ~ 一時的な競合優位の連続的な獲得> 

上記の2つのポイントを実現するにはどうすればいいのでしょうか。 

知の探索・知の深化に限定せず、”世界標準の経営理論”をベースに、経営全体の視点でもう少し深堀をしたいと思います。 

 

イノベーションによる連続的な新規事業の創出 

シュンペーターの定義によると、イノベーションとは”新結合(new combination)”、すなわち既存の技術や資源、労働力などの結合により生まれるものです。(イノベーションは技術だけの話でなく、また、革新という言葉からくるゼロからイチを生むものでもなく、”技術革新”は世紀の大誤訳です) 

 

イノベーションによる連続的な新規事業の創出には、2つのポイントがあります。 

イノベーションを起こすための知の探索を行い、新結合を起こさせること。そのために 

- 状況に応じて適切にリソースをあてがうこと (ダイナミック・ケイパビリティ) 

- 人的ネットワークを持たせること 

 

イノベーションはリスクが高く、既存事業へのリソース配分に振られがちとなる(コンピテンシー・トラップ)。そのために 

- ガバナンスをきかせ、中長期の視点を持った経営判断を行える仕組みを作ること 

 

既存事業の競争優位を維持・強化 

既存事業の競争優位を維持・強化には、3つのポイントがあります。 

知の深化を行い、既存事業に磨きをかけること。そのために 

- 人的ネットワークを持たせること 

 

それを生産性高く実施すること(コスト・リーダーシップ)。そのために 

- BPRを推進すること 

- 状況に応じて適切にリソースを再配置すること (ダイナミック・ケイパビリティ) 

 

衰退時には適切な経営判断を行うこと。そのために

- ガバナンスをきかせ、中長期の視点を持った経営判断を行える仕組みを作ること 

 

すなわち、イノベーションによる連続的な新規事業の創出と既存事業の競争優位を維持・強化するには、以下の3つがポイントになります。 

 

①  ガバナンスの導入による中長期視点での意思決定 (攻めのガバナンス) 

- コンピテンシー・トラップに陥らずにイノベーションへの投資判断ができること 

‐ 撤退を含めた既存事業への経営判断ができること 

 

事業環境に合わせ、動的にリソースの再配置を行うこと (ダイナミック・ケイパビリティ) 

- 人的ネットワークを築くこと 

- 特に既存事業に関してはBPRを通じ、さらにリソースを捻出し、適切に再配置すること (消えた工数問題) 

 

③ 長期的な硬直化の防止 (組織・カルチャーの進化) 

- 中長期的な同質化・硬直化による環境変化の対応力低下に対し、組織内の多様性を維持すること 

 

 

<なぜ改革が進まないのか ~ 改革の阻害要因> 

日本企業が目指すべき方向性に対して、解決は容易ではない。その阻害要因は広域に広がり、以下に分類することができます。

- 戦略・企業方針

企業目的を達成するための経営判断

- 業務

経営判断に基づく事業の執行

- インフラ

業務を行う上での環境 (IT, オフィスなど含む)

- 組織

企業目的を達成するための集団を形成するために人為的に設定された枠組み (組織構造・制度など) 

- 企業文化

企業理念その他により確立された従業員の行動の特性

- 習慣(社会的正当性)

宗教・道徳・その他の要因により確立し、日本人のDNAとして染み付いたこうあるべきという暗黙的合意

 

 

 

<本ブログの対象領域> 

”世界標準の経営理論”をベースに、20年以上のコンサルタント・社内コンサルタントとしての現場での経験に基づき、特には”執行”の領域での課題・真因から実務的な対応策についてポイントごとにまとめます。  

一部、”経営”領域に関しても”執行”という視点を交え、まとめる予定です。具体的には  

 

ポイント① 攻めのガバナンス 

基本的には”経営”の領域ですが、一部、執行にも関わる領域をカバー 

対応する改革阻害要因:

- 戦略・方針 

具体的な対応策:

- 意思決定、リスクテイク 

 

ポイント② ダイナミック・ケイパビリティ 

対応する改革阻害要因:

- 業務

- インフラ

- 組織 

具体的な対応策 :

- BPRや業務断捨離など、既存業務のスリム化 

- リソース・シフトなど動的ケイパビリティの再配置 

- ITによる省力化 

- ネットワークによる知の探索・知の深化 

- 職務(オフィス)環境 

 

ポイント③ 組織・カルチャーの進化 

対応する改革阻害要因:

- 企業文化

- 組織 

具体的な対応策:

- 組織形態 

- ダイバーシティ 

- マインドセット 

 

 

<本ブログの構成> 

本ブログは以下の構成でまとめる予定です。 

1. 日本の働き方の原点 

日本固有の社会的正当性はどのように形成され、働き方にどのように影響しているのかを考察 

2. 昭和な働き方 

高度成長期の静的な”競合優位の獲得・維持”のための働き方を”昭和な働き方”と定義したうえでその特徴を考察 

3. 令和な働き方 

動的な”一時的な競合優位の連続的な獲得”を令和な働き方と定義したうえでその特徴を考察 

4. 必要な改革 

令和の働き方の実現を目指すために必要な改革 

5. 具体的な改革事例など 

 

みなさんからのフィードバックもぜひ、よろしくお願いします。