創造の時代に目指す働き方像 - デジタル・アテネとは?

<主な参考文献>

 ギリシャ時代、奴隷たちに労働をさせることにより、ソクラテスアリストテレスプラトンなどが哲学を発展させてきた。

 

現代社会においては、IT技術を活用し、付加価値の低い繰り返し業務、いわゆるオペレーショナル業務をデジタル・レイバー、デジタル・スレイブに実施させ、人にしかできないクリエイティブな業務にシフトする”デジタル・アテネ”を志向する必要がある。

 

具体的には

オペレーショナル・ワーク

- AI-OCR、名刺管理ソフト・電子契約などによる紙のデジタル化

- RPAやワークフローアプリ(マイクロソフトのPowerAutomateなど)などによる業務の自動化

- ZoomやTeamsなどによる会議のオンライン化 など

 

クリエイティブ・ワーク

- 生成系IA (ChatGPTなど)による

  情報収集、アイデアの壁打ち、ドラフトの作成 など

 



 

1-1. 日本の働き方の原点 - 宗教から見る日本の働き方 ~ なぜ根回しが必要なのか

日本固有の社会的正当性(社会共通で醸成されている暗黙的合意。倫理観・価値観など)はどのように形成され、働き方にどのように影響しているのでしょうか。 

気候・風土・土地・食・宗教・・・社会的正当性は多くの要素に影響を受け、社会的正当性は働き方にも影響を与えています。 

まずは宗教の観点から見た日本の働き方を考察したいと思います。 

 

宗教はその国の社会的正当性に大きく影響を与えています。 

特に一神教(特に旧約聖書を共通の経典として持つキリスト教ユダヤ教イスラム教など)と多神教(神道ヒンズー教など)の特性の違いは、社会的正当性として大きな差となって表れています。 

 

一神教の価値観に見る働き方> 

一神教の世界では、全知全能の神がトップダウンで定めた唯一・絶対的な価値観が存在し、その内容に照らし合わせて、正しいか正しくないか、善いか悪いかを判断します。 

例えばキリスト教では、人間というものはそもそも間違えを犯す困った存在 (原罪)であり、その困った人間がしっかり生きるには、神が助ける必要になります。そのため、人は神と1対1で、契約と法律で結びついています。 

 

そのような罪の文化では、絶対的な価値観や明確な価値観が提示され、それに従い行動するという社会的正当性が醸成されていった。 

 

そのため、欧米を中心とする企業では 

  ジョブ・ディスクリプションでの業務内容定義+雇用契約として1対1で結びつき 

  明確なルールに基づく労働 

  ディベート、基準と数値による迅速な意思決定 

といった働き方の定着の一要因となった。 

 

多神教の価値観に見る働き方> 

そもそもトップである神が多数おり、神により個性も性格も異なるため、多くの価値観が存在します。 

例えば、ヒンズー教では、創造(ブラフマー)、維持(ビシュヌ)、破壊(シヴァ)のような性格が全く異なる多数の神が存在します。神道でも同じく、アマテラス(太陽の神)に対し姉弟でありながら暴力的なスサノオなど、まったく個性の異なる多数の神(八百万の神)が存在します。 

そしてその神々の多くは自然界への崇拝を表しているのも特徴です。 

 

そのため、多神教の国、多くの価値観が存在するなか、すり合わせによる合意形成が社会的正当性として醸成されていった。 

 

そのため、特に日本の企業では 

  会社の都合であらゆる業務をこなすメンバーシップ型雇用 

  根回し・すり合わせ型の意思決定 

といった働き方の定着の一要因となった。 

2-3. 昭和な働き方 ~ 高度経済成長期を支えた社会 ~ 終身雇用を支える家庭

企業と労働者のみが、高度経済成長期の日本型雇用慣行を支えたのではなく、家庭を含む社会や、政府も法制などによるその発展を支えました。

 

<家庭 ~ 専業主婦家庭>

終身雇用制度は、雇用を維持する代わりに家族への大きな負担を求めるものでもあります。

すなわち、家族唯一の収入源のために、長時間労働・転勤にも家族で対応する高度成長期の”昭和な働き方”が定着して行きました。

その見返りとして、専業主婦は年金・健康保険の受給を受けられるようになりました。

 

<法制 ~ 税控除>

政府もまた、税制面でサポートを行い、社会全体として定着していきました。

 

1. 勤続年数に応じた退職金の所得控除

退職金にかかる所得税ほかの退職所得控除額も勤続年数により変わるよう設計されています。

勤続年数20年までは年額40万円、それ以降は年額70万円と勤続年数が長いほど、控除額が増えるよう設計されています。

 

退職金と税|国税庁

 

これも途中退社が不利になるような制度です。

 

2. 配偶者控除

配偶者控除制度もまた、専業主婦家庭の税負担を抑え、終身雇用制度を支えるための税制度となっています。

 

No.1191 配偶者控除|国税庁 

 

 

<立法・司法 ~ 解雇権濫用法理>

日本の労働法は

  資本家は搾取するものである。よって労働者は守らなくてはならない

という原理のもとに制定されています。よってその雇用も解雇権濫用法理により強く守られている。

すなわち、下記のよう厳格に解雇の有効性を審査する判断要素が提示されており、終身雇用を維持するよう、いったん雇った正社員はなかなか解雇できない状況になっています。

①人員削減の必要性

②解雇回避の努力

③人選基準の相当性

④手続きの相当性

 

結果、現在においては、人材の流動性が失われているという雇用者側にも不利益がもたらされています。

 

<政策 ~ 中小企業の雇用維持>

高度経済成長期の1964年、OECD加盟による資本の自由化がなされました。

加入に際し、政府は中小企業の新陳代謝より雇用の維持を最大の政策とし、中小企業を保護・救済し、労働力確保させるため、中小企業基本法 (1963年~1999年)を導入しました。

その内容は

   法人税率の軽減

   交際費の損金処理

   外形標準課税の軽減及び法人事業税の減税

   少額減価償却資産

   繰越損金 など

が組み込まれました。

 

ただし、企業の淘汰にブレーキがかかり、本来、新陳代謝されるべきゾンビ企業が多く残る結果となりました。

2-2. 昭和な働き方 - 日本的雇用慣行 ~ より多くのモノを計画通りに作り続ける

<企業戦略 ~ 市場成長以上の成長>

高度経済成長期の市場は需要が拡大する市場であり、作れば売れる時代でした。

静的な”競合優位の獲得・維持”することが企業戦略であり、すなわち、市場成長以上に成長することでした。

そのためのポイントは単純化すると

  ”より多くのモノを計画通りに作り続ける”

ということにあります。

 

<より多くのモノを作り続ける ~ 終身雇用と年功序列

作れば売れる時代に、市場以上に成長するためには

  同じ人数で生産性を高める (同じ人数でより多くを生み出せるようにする) または

  同じ生産性で多くの人数で生産する

必要があります。

人口ボーナス期である高度経済成長期には、初等教育を受けた(労働力として)優秀な人材が多くいました。

その労働力を長期で安定的に確保し、市場以上の成長を実現するめ、日本型雇用慣行といわれる終身雇用制度・年功序列制度が整備されていきました。

この終身雇用制度・年功序列制度は以下の3つの特徴によって支えられています。

 

1. 年功賃金制度

モチベーションを維持し定年まで働いてもらうためには、年功序列での賃金制度が必要です。

裏を返すと、若年層の賃金を抑える実質的な賃金後払い制度となっています。

 

2. 中途退職が不利になるインセンティブ体制

途中退社を阻止するため、金属年数に応じた退職金制度を制定した。

これも実質の賃金後払い制度です。

 

3. 企業内のどの職場でどんな仕事でも行うことが求められる包括的な働き方

就職ではなく、就社といわれるメンバーシップ型雇用により、会社側都合での配置を実施できる制度として設計されました。

 

<モノを計画通りに作り続ける ~ トップダウン組織と減点評価>

いわゆる日本型雇用慣行のほかにも、モノを計画通りに作り続ける組織・評価制度も設計・定着していきました。

そのポイントは単純に書くと

  トップが決めた計画を確実に遂行する

  そのためにミスは(限りなく)ゼロにする

ということになります。

 

そのための組織・制度・文化の主なポイントをいくつか列挙したいと思います。

 

1. 組織:ヒエラルキー組織

人の生死、国の存亡に関わる軍隊は、トップの指示を確実に末端に伝え、行動できるよう、単純な上下関係のみの厳格なヒエラルキーの組織構造を持っています。

(ティール組織の順応型=アンバー組織)

逆に言うと、現場が異なる複数の指示を受けた場合、それは部隊の全滅のみでなく、戦闘の敗北につながりかねないため、徹底的に指揮命令系統の単純化の組織構造を持っています。

高度経済成長期の日本企業も、軍隊と同じヒエラルキー組織により、計画・指示を確実に遂行する体制を確立しました。

 

2. 評価制度:減点主義

トップダウンによる統治を前提としたヒエラルキー組織をより機能させるため、減点主義による評価制度も導入されました。

それは、生産に支障をきたす行為、組織の輪を乱す行為、指示に従わない行為に対し、明確にペナルティを与える制度になっています。具体的には

  ミス・失敗

  トップダウンへの適応性

  態度と忠誠心

などが評価のポイントであり、当時の企業文化や組織にも大きな影響を与えました。

働き方改革 - 経済学から見た生産性と賃金 ~ 楽して儲けろ!

<主な参考文献>

 

経済学では、長期的には賃金と生産性がある程度の関連性があると考えられています。

すなわち、生産性を上げない限り、賃金は上がらない。

生産性を上げる要素として

   物的資本の増加 (仕事でつかえる設備が多くなる)
   人的資本の向上 (働き手の教育・経験レベルが高くなる)
   技術の進歩 (より効率的に生産できる)

が挙げられている。

バックオフィスにおいてはIT、DX、AIをはじめとするテクノロジーを活用しない限り、生産性は上がらない、結果、日本の実質賃金は低下し続けている。

 

一方で日本人はいかに苦労したかに価値観を見出し、結果

  システムに働かせるのではなく、システムのために働いている

状態になっている。

 

賃金(給与)を上げたいなら、会社・社会全体で生産性を上げていきましょう。

 

働き方改革 - 消える削減効果 ~ 働き方とともにマインドセットも変えよう

<主な参考文献>

 

業務改革を行い、せっかくxxx時間削減!を見込めても、結局、別の業務ができるわけでもなく、残業代削減にもつながらず、それって理論値だよね で終わってしまう寂しいことってありますよね。

 

八百万の神が住む日本ではモノには神が宿り、そのモノを極めることに美を見出しています。

そして、働くことは修行ととらえ、苦しくても悟りへの道として忍耐強く働きます。

 

そんな中、野中先生は

- オーバー・アナリシス(分析過剰)
- オーバー・プランニング(計画過剰)
- オーバー・コンプライアンス法令遵守過剰)

を日本企業の三大疾病と言っています。

 

そして、業務改革においても浮いた時間を”オーバー”に使ってしまいます。

すなわち、浮いた時間で現行業務の品質を極限まで高めようと

オーバー・クオリティ(品質過剰)

になってしまいます。

 

現業の業務の問題がなければ

  よりクリエイティブ(創造的)な業務

  自己投資 (リカレント・リスキリング)

に充てたいものですね。

そのためにもマインドセットの変革が必要だと思っています。

 

働き方改革 - グーグルに見る社内コミュニケーション ~ とびきり高性能のルータになれ!

<主な参考図書>

どのようにすればイノベーションを生み続けられる企業になるのか?

グーグルの創業者ラリー・ペイジがめざした組織がここには描かれています。

 

ヒエラルキーをベースとし指揮・命令系統を重んじた日本企業は、作れば売れる高度成長期には非常に機能しました。

そしてヒエラルキーは、上司が持つ情報と部下が持つ情報に格差を持たせることにより維持されました。

そんな時代のコミュニケーションを

仕事が働くことだった時代のケチケチした情報分配

と表現していました。

 

一方、イノベーションを起こすためにグーグルは情報の共有を重視しました。

イノベーションとは、シュンペータが新結合(new combination)と定義したよう、既存のモノとモノを組み合わせることにより実現します。

そのために、ラリー・ペイジはひとりひとりがとびきり高性能のルータになり、情報を巡回させる組織を目指しました。

 

本書の中ではマイクロソフトの創業者であるビル・ゲイツの言葉も引用して

仕事が考えることの時代の力の源泉は秘匿した情報ではなく、共有した情報

と表現しています。